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集中、注意、意識、アテンションの研究論文解説(1)

こんにちは

このトピックは研究論文の解説をして行きたいと思います。現場で働く人にどれほど役立つかわかりません。でもたくさんの研究の結果を集め、研究に携わらない人達に噛み砕いた物を集めたのが「教科書」なのです。つまりみんな少しは研究に知らないところで触れているのです。「研究論文解説」はそういった教科書の素を紹介して行きます。

今日は過去20年程、集中についての研究がアメリカのモーターラーニング(運動学習)で活発になった「きっかけ」と言っても過言ではない論文の一つを研究します。

まず、トレーナーやコーチは「教える」事が大事ですよね?
と言う事は。。。。体育の教師やコーチ、トレーナーは体の動きやどういったら体を上手に動かせるか、を教えるのが大事だ、と思うのは自然ですよね? 実際、過去100年以上「そらそうやろ!」という考えを前提として研究が行われていました。しかしそこに疑問を持った研究者がいました。そう、それまでの大前提に対する疑問、「本当に体の動きに集中した方がいいのか?」という疑問です。

その一人がHenry (フランクリン•ヘンリー)という研究者です。運動学習の研究をしている人でこの人を知らなければ偽物、とい得る程超有名な心理学者です。ヘンリー(1953)はある機械を作りました。床に置いてあるその機械の先に棒のような物を垂直につけ、その先に黒板消しのようなパッドをつけました。そのパッドがちょうど肩の高さにくるように棒の長さを調節しました。キリンで例えれば、胴体が機械で首が棒で鼻がパッドと言ったとこでしょうか。この機械は棒が動くように出来ています(キリンの首が前後に動くように)。被験者は機械の正面に立ち、そのパッドに手を当てた格好で準備します。

そして、ヘンリーは3つの違う状況を試しました。
1)被験者はパッドの押す力が強くなったり弱くなったりするので、パッドに対して押す力を弱めたり強めたりして「パッドの位置を一定に保つ」ように集中すようよう言われました。
2)また違う状況ではパッドが強く押したり逆に後ろに引いたりするのでその動きに対して自分の腕の伸ばしたり曲げたりしながらしてパッドに対して押す力を一定に保つように指示されました。つまりつよく押してくると腕を曲げてパッドに強すぎる圧を掛けないようにして、パッドが引くと逆に腕を伸ばしてパッドに対して強めの圧を掛ける。このようにしてパッドに対する圧を一定に保つように指示されました。
*ちなみにこのパッドの押したり引いたりする強さやタイミングはランダムに設定されていました。
3)最後の状況では被験者は再度1)2)の状況の中で被験者にパッドの押したり引いたりする力が変わったら、研究者に伝えるように言われました。
つまり、1)では被験者はパッドの位置を一定に保つという「ゴール」に対して集中を向け、2)では自分の腕の感覚、つまり体に対して集中を向けるようにしたのです。さらに3)でその二つの状況の中でどれだけ体が敏感に反応できるかという実験をしました。

この結果、面白い事に、1)の状況、つまりゴールに注意を向けた方が、2)の体の感覚に注意を向けたときより正確にパッドの動き(圧の変化)に対して反応し一定の圧を掛けている事がわかりました。さらに、3)の結果では1)の注意がゴールに向いているときの方が変化により敏感に感じ取る事ができ、2)の状況の時にはパッドの圧がほんの少しだけ変わった時には被験者は気付かなかったのです。

結論:
この研究が今までの指導者の大前提、「運動や体の動きを教える時は、体の動きや感覚に集中しないといけない」を覆す事になりました。つまり、意識がパッドに向いていても体がする事は一緒で、人間の意識下のレベルで筋肉細胞を一つ一つ動かす事は無理、というより、人間の仕組みがまずそう出来ていない、と言う事です。どういう事かと言うとあなたがイスから立つ時様々な筋肉が動かされ、バランスが保たれ、数えきれない無数の事が全て完璧なタイミングで起こらないと「立つ」という行動はできません。でも、あなたはそれが出来るのです。つまり、筋肉や体の動きは無意識下でコントロールされ、意識下では、立つという「ゴール」を考える程度なのです。
この研究は1953年に行われたものです。しかし、未だにこの研究を知る人は多くありません。どうですか?「意識」というのはとても面白いですよね。これから研究の世界を少しずつ紹介していきたいです。少しでも興味を持っていただけると幸いです。

参照:
Henry, F. (1953). Dynamic kinesthetic perception and adjustment. Research Quartely. American Association for Health, Physical Education and Recreation, 24(2), 176-187. 

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