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集中、注意、意識、アテンションの研究論文解説(2)

こんにちは

みなさんは野球を教えるとき例えばどうやったらボールが速く投げれるか教える時に腕の角度やボールの回転について話しているのを聞いた事がありませんか?また、バスケットのシュート、ボクシングのパンチを教える時どのように物理的に下半身の力を上半身に伝えれば良いかを教えた事はありませんか?

 これらの例は、その動きに対する「法則」を教えていますね。つまり、何がどのようになっているかを理解すればうまくなる、という考えを前提として指導していることになります。しかし、この指導法が本当に良いのかを研究したのが今日紹介する論文です。

この前は、意識、集中についての論文で、体の感覚や動きに意識を向けるとパフォーマンスのみならず、変化に対しての敏感性すら落ちてしまう事が紹介されました。この論文で比べられた2つの「意識」は体の動きに集中vs. 目的そのものに集中でした。

今回紹介する論文は、「動きの法則への意識」です。ウルフとウェイゲルト(Wulf & Weigelt, 1997)はスキーのシュミレーターを作りました。緩い山型(凸状)の電車のレールのような物の上にタイヤ付きの板が乗った機械です。板の両端とレールは強力なゴムで繋がれていて板が凸状のレールのテッペンに維持されるように作られています。
(図はWulf, Hob, & Prinz (1998)Instructions for motor learning: Differential effects of internal versus external focus of attention. Journal of Motor Behavior, 30(2), 169-179.より)

被験者は体重を左右にかけると板がレールの上を動き、力を抜くと真ん中(テッペン)に戻るようにできています。つまり、スキーのスラロームのシュミレーション機械です。
以前の研究でプロのスキープレーヤーは図のように右に重心を動かし次に左に移る時、テッペンを超えてか外側の足(この場合左に向かっている例なので左足)に力を加え左に移動し、また右に動くときはまた真ん中を超えてから外側、つまり右足に力を込めて踏み込む事がわかりました。それに対して素人は踏み込むタイミングが早い、つまり、真ん中を板が超える前に踏み込み始める事がわかっています。


さて、話を戻します。あなたならどう教えますか?あなたがこの知識を知っていたら、力を外側の足で蹴る、そして真ん中を過ぎてから蹴る、という「法則」を教えて上げますよね?この論文は、それが本当に良いのかを考えるために研究されました。この動きの「ゴール」は左右により強く、そしてより早く動く事です。機械にはどれだけ強く動いたかを測る機械がつけられています。
被験者は二つのグループに分けられました。1つはこの法則を学び、もう一つのグループはなにも指導を受けずに自分たちで失敗しながら模索するグループです。どちらも同じに回数と日数練習した後、両方にプレッシャーを与えました。被験者はプロのスキーヤーがあなたの動きを評価する、と伝えられました。

この研究の結果、両方のグループとも研究の始めに比べて有意義にうまくなりました。しかし、プレッシャーを与えられた時、何も指導を受けていないグループの方がより上手にプレーした事がわかったのです!

この研究のトピックはExploration (探索)vs. Exploitation(搾取)と言ってよく研究されているもので、指導を与えることによって実はその与えられた指導の方法でしかパフォーマンスができなくなる、という考えです。逆に指導無しで練習すると、指導を受けた人達よりいろんな失敗をします。つまり、見た目には指導をした方が良く見えます。しかし、練習を重ねて行くと、指導を受けなかったグループはいろんな方法を試し、より良い動き方を「探索」していくので最終的に指導を受けたグループよりも上手になる、という考え方です。

この研究は運動やスポーツの指導そのものに疑問を投げかけるような研究となり得ます。自分で一番いい方法を模索させた方が良くて、指導すると逆効果?!という結果になったからです。
さて、それが本当かどうかは次の論文解説で話していきます。

参照:
Wulf, G., & Weigelt, C. (1997).Instructions about physical principles in learning a complex motor skill: To tell or not to tell.... Research Quartely for Exercise and Sport, 68(4), 362-367.

集中、注意、意識、アテンションの研究論文解説(1)

こんにちは

このトピックは研究論文の解説をして行きたいと思います。現場で働く人にどれほど役立つかわかりません。でもたくさんの研究の結果を集め、研究に携わらない人達に噛み砕いた物を集めたのが「教科書」なのです。つまりみんな少しは研究に知らないところで触れているのです。「研究論文解説」はそういった教科書の素を紹介して行きます。

今日は過去20年程、集中についての研究がアメリカのモーターラーニング(運動学習)で活発になった「きっかけ」と言っても過言ではない論文の一つを研究します。

まず、トレーナーやコーチは「教える」事が大事ですよね?
と言う事は。。。。体育の教師やコーチ、トレーナーは体の動きやどういったら体を上手に動かせるか、を教えるのが大事だ、と思うのは自然ですよね? 実際、過去100年以上「そらそうやろ!」という考えを前提として研究が行われていました。しかしそこに疑問を持った研究者がいました。そう、それまでの大前提に対する疑問、「本当に体の動きに集中した方がいいのか?」という疑問です。

その一人がHenry (フランクリン•ヘンリー)という研究者です。運動学習の研究をしている人でこの人を知らなければ偽物、とい得る程超有名な心理学者です。ヘンリー(1953)はある機械を作りました。床に置いてあるその機械の先に棒のような物を垂直につけ、その先に黒板消しのようなパッドをつけました。そのパッドがちょうど肩の高さにくるように棒の長さを調節しました。キリンで例えれば、胴体が機械で首が棒で鼻がパッドと言ったとこでしょうか。この機械は棒が動くように出来ています(キリンの首が前後に動くように)。被験者は機械の正面に立ち、そのパッドに手を当てた格好で準備します。

そして、ヘンリーは3つの違う状況を試しました。
1)被験者はパッドの押す力が強くなったり弱くなったりするので、パッドに対して押す力を弱めたり強めたりして「パッドの位置を一定に保つ」ように集中すようよう言われました。
2)また違う状況ではパッドが強く押したり逆に後ろに引いたりするのでその動きに対して自分の腕の伸ばしたり曲げたりしながらしてパッドに対して押す力を一定に保つように指示されました。つまりつよく押してくると腕を曲げてパッドに強すぎる圧を掛けないようにして、パッドが引くと逆に腕を伸ばしてパッドに対して強めの圧を掛ける。このようにしてパッドに対する圧を一定に保つように指示されました。
*ちなみにこのパッドの押したり引いたりする強さやタイミングはランダムに設定されていました。
3)最後の状況では被験者は再度1)2)の状況の中で被験者にパッドの押したり引いたりする力が変わったら、研究者に伝えるように言われました。
つまり、1)では被験者はパッドの位置を一定に保つという「ゴール」に対して集中を向け、2)では自分の腕の感覚、つまり体に対して集中を向けるようにしたのです。さらに3)でその二つの状況の中でどれだけ体が敏感に反応できるかという実験をしました。

この結果、面白い事に、1)の状況、つまりゴールに注意を向けた方が、2)の体の感覚に注意を向けたときより正確にパッドの動き(圧の変化)に対して反応し一定の圧を掛けている事がわかりました。さらに、3)の結果では1)の注意がゴールに向いているときの方が変化により敏感に感じ取る事ができ、2)の状況の時にはパッドの圧がほんの少しだけ変わった時には被験者は気付かなかったのです。

結論:
この研究が今までの指導者の大前提、「運動や体の動きを教える時は、体の動きや感覚に集中しないといけない」を覆す事になりました。つまり、意識がパッドに向いていても体がする事は一緒で、人間の意識下のレベルで筋肉細胞を一つ一つ動かす事は無理、というより、人間の仕組みがまずそう出来ていない、と言う事です。どういう事かと言うとあなたがイスから立つ時様々な筋肉が動かされ、バランスが保たれ、数えきれない無数の事が全て完璧なタイミングで起こらないと「立つ」という行動はできません。でも、あなたはそれが出来るのです。つまり、筋肉や体の動きは無意識下でコントロールされ、意識下では、立つという「ゴール」を考える程度なのです。
この研究は1953年に行われたものです。しかし、未だにこの研究を知る人は多くありません。どうですか?「意識」というのはとても面白いですよね。これから研究の世界を少しずつ紹介していきたいです。少しでも興味を持っていただけると幸いです。

参照:
Henry, F. (1953). Dynamic kinesthetic perception and adjustment. Research Quartely. American Association for Health, Physical Education and Recreation, 24(2), 176-187. 

その3:その1、その2の応用。

こんにちは
この前はその1で筋肉が刺激、収縮されるメカニズムを、そしてその2で筋繊維のタイプについて話しました。では今日はここまでの知識を普段の筋トレや運動にどう活かせるかを少し話したいと思います。

まずはその2の最後で話しましたが、筋力の成長には神経の成長と筋肉そのものの成長と2つある、ということです。神経の成長が筋繊維そのものの成長より速く起こるので、トレーニングを始めた際、急激な成長が見込めます。しかし、その後「壁」にぶつかるようにゆっくりとした成長が始まります。
だから、今まで通り伸びなかったとしてもそれはトレーニングの内容どうこうより、もっと生理学的な事で当たり前の事だと言う事を心がけてください。

その次に言える事は、モーターニューロン(運動神経)と筋肉の関係です。その1で紹介したように、筋肉はモーターニューロンによって刺激され、体にはたくさんのモーターニューロンがあります。一つのモーターニューロンは決められた筋繊維しか刺激しません。そのモーターニューロンが他の筋繊維を刺激する事はありません。
 つまり、あたなが遅筋(持久筋)を鍛えたいのに速筋のモーターニューロンを刺激していても、遅筋はほとんど刺激されることはありません。目的と違った筋トレやトレーニングをすると効果があまりない、と言う事です。

では、どのように遅筋、速筋を刺激するのでしょう?あなたが頭で「速筋を刺激しろ!」とどんなに念じても速筋だけを刺激する事はできません。その方法は、duration (時間)とintensity (強度)です。その2を思い出してください。遅筋の特徴は繰り返し収縮する事ができる、ということです。例えで言うと、マラソンを走る、腕立てを100回する。こういった時遅筋が使われます。何が言いたいかというと、刺激する筋肉を直接操作する事はできませんが、今言った2つを操作する事で勝手に体が遅筋を刺激したり、速筋を刺激したりする、ということです。
 運動強度とは、自分が1回持ち上げられる最大重量を持ち上げる筋トレの運動強度はマックスで、それ以下の重量で(例えば最大の90%、60%)運動する時、それは低い運動強度と言えます。走る事で言えば、100Mを自分の出来る限り速くで走る事は100%の運動強度、ジョギングなどはそれより低い運動強度ですね。
 運動強度が上がれば体は勝手に速筋を鍛えます下がれば勝手に遅筋を使います。実は単純なメカニズムで、100Mをマックスで走っている時、筋収縮は早くないとその運動ができません。だから、脳が勝手に速筋を使います。さらに、それだけ爆発的な力を出すと言う事は筋力が必要となります。だから速筋が使われます。
 筋トレもこのように、速筋を鍛えたければ重量を重くする事によってそれが達成されます。遅筋を鍛えたければ100%よりも軽い重量で繰り返し行うことです。つまり、速筋の特徴、遅筋の特徴に合わしてトレーニングをすれば良いわけです。
 
筋トレをしているのに効果がでないという人の多くはこの強度と時間の関係性を無視したトレーニングをしています。
例えば、筋力を上げたいのに軽い重量で何回も何回も繰り返す(腕立て)。腕立ては胸筋の持久力は上がります。しかし、筋力は上がりません。なぜなら、運動強度が低いため遅筋が刺激されているからです。だからダンベルプレスやベンチプレスを高い強度(重い重量)でする必要があります。

ここで最後に、2つ言っておくべき事があります。
1つは、その2で紹介した3つの筋繊維(遅筋、中間筋、速筋)。これは0、100ではないと言う事です。割合なんです。つまり、運動強度が高い時80%の速筋が使われていて、15%が中間筋で、5%が遅筋。歩いている時は80%が遅筋で15%が中間筋で5%が速筋。のように。つまり、腕立てをしたからベンチプレスで筋力が絶対に伸びない、というわけではありません。速筋もある程度刺激されているからです。でも、より効果的にトレーニングをしたければ、上で紹介した時間と強度を操ってトレーニングをする事です。

もう一つは、Order principleというのがあります。オーダーはここでは注文ではなく順番。順番の法則。つまり、筋肉は遅筋から順番に、中間筋、そして速筋と刺激されます。ですから、筋トレの効果を一番上げたければ、重い重量を上げる事だと言う事が示唆されます。でも、この順番は爆発的な運動をする時は無視される可能性がある、という事も言われています。つまり、100Mで一気に走る時、クリーンやスナッチのような爆発的な運動をする時は、一気に速筋を刺激するかも、と言うのが今の科学の見地です。




その2:筋肉細胞のタイプ、筋肥大

こんにちは
前回その1で筋肉が刺激され収縮されるメカニズムを簡単に紹介しました。
今回は、筋肉のタイプについて簡単にまとめたいと思います。

まず筋肉には大きく分けて3つのタイプに分かれます。
Type I (遅筋)、Type IIa(中間筋)、Type IIb (速筋)です。
ちなみに、この分け方は何を定義に違う種類と言っているかによって変わってきますので6とか8とか12とか分類するものあります。3つは一番オーソドックス、よく使われている分け方です。

遅筋の特徴は簡単に 1)筋収縮のスピードが遅い、2)収縮した時に出せる力が弱い、3)繰り返し収縮する事ができる、です。

速筋の特徴は 1)筋収縮のスピードが速い、2)収縮した時に出せる力が強い、3)繰り返し収縮するのは苦手、です。

中間筋はその間の特徴を持ちます。
運動時、体は持久的運動の時遅筋が使われ瞬発的な動きをする時に速筋が使われます。他の言い方では、軽いものを持ち上げる時には遅筋が使われ、重いものを持ち上げる時には速筋が使われます。

スポーツや目的に応じて遅筋を鍛えたい人も速筋を鍛えたい人もいるでしょう。筋肉の特徴として今の科学では
成人では筋肉の細胞の数はトレーニングでは変わらないというのが定説です。
さらに、筋トレやトレーニングで遅筋や速筋の比率は変わりません。生まれつき遅筋が多かったり速筋の割合が多かったりします。

では、どのようにしてあなたは筋力が上がったりするのでしょう。それは神経筋肥大によってです。その1でモータニューロンの話をしました。つまり筋肉を使う時必ずモータニューロン(運動神経)よって刺激されます。さらにその1でどのようにして筋肉の収縮を強くしたり、弱くしたり加減をしているかを話しました。

 神経の発達:トレーニングをしたり、筋トレをする事によって足が速くなったり、筋力があがる一つの要素が、この神経の発達によるものです。
1つは脳がより多くの運動神経を刺激するように憶える。
2つ目は脳が神経を刺激する頻度を上げるのを学ぶ。つまり手を10秒間で出来るだけ早くたたく練習をすればどんどん速くなります。このように刺激をどんどん強くする方法を学びます。
3つ目は、1でより多く刺激できるようになった筋肉を同じタイミングで刺激する方法を学びます。綱引きで見方の友達と自分が同じタイミングで力を出さないとうまい事力が伝わりませんよね?同じように脳によって刺激される運動神経達もタイミングによって上手に伝わるかが変わってきます。
最後に、筋肉には裏側の筋肉があります。二頭筋の裏には三頭筋、ふくらはぎの筋肉の裏にはハムストリングがありますよね。なれない動きをする時、脳は関節(体)を守るため逆の筋肉を多く刺激する事によって関節を保護します。しかし、これは動きとしてはブレーキを掛けられているようなものですね。トレーニングをするにつれて脳はこのブレーキを掛ける足を「緩める」事を憶えます。つまりマイナスが減るので結果として筋力が上がります。
このようなメカニズムで筋力が上がります。ではもう一つの筋トレの側面。筋肥大。

筋細胞の発達、筋肥大:上で筋細胞の数は増えない、と言いました。ではどのようにして筋力が上がるか。それは筋肥大によるものです。筋肥大とは筋細胞自体が大きくなる事です。筋細胞は筋繊維とも言われるように髪の毛ように細長い形が特徴です。それが分厚くなる、ということです。これによって筋細胞の中に隙間ができます。この隙間に筋収縮するタンパク質をより多く詰めるとこができる。だから筋トレで大きくなるんですね。

大きく分けてこの2つのメカニズムによって筋力があがります。一つ目の神経の発達はトレーニングや筋トレをしてかなり早い段階で発達して行きます。筋細胞自体の発達はしか時間がかかるので筋トレを初めて3〜12週間もかかります。
ここで筋トレをする時に心がけておくいくつかのポイントがあります。
一つは筋力の発達の始めは神経のよるもの。つまり筋力は上がってきても別に筋細胞自体が発達しているわけではありません。大きくなったように感じるのは、筋細胞の中と外の水分量が収縮によって変わるので「パンプアップ」しているだけで別に筋肥大が起きたわけではありません。1時間もすれば元に戻ります。
他に筋力の発達は同じようには伸びない、ということ。筋トレ未経験者は神経も発達していない、筋細胞も発達していないので1、2週間で20kgもベンチプレスの結果が上がった、とか40kgもスクワットが伸びたってことはざらにあります。しかし、すでに経験を積んだ人は1kg伸ばすだけでも相当の時間を要します。だから、簡単な比例ではない、と言う事です。

少し、基本を学ぶだけでいろんな事が見えてきますね。ではまた次回。